研修4日目。
英語で注文も取れるし、大きな声出しもできる。
ぎこちないながらも大体の仕事ができるようになった。
不安もまだまだあったが、こんな感じでやっていけばいいんだなと感覚がつかめてきて、若干ではあるが自信が湧いてきた。
休憩を取る前に、その場で働くスタッフ1人1人に「休憩いただきます。」と声がけをしないといけない、超日本的なルールがある。
私の休憩時間になり、「めんどくさいな、ここはオーストラリアなのに堅苦しい。」と思いながらもそれに従って挨拶をして周る。
最後にスタッフ用休憩室に行くと、そこには年に数回しか訪れないと言うこの店のオーナーがいた。
40歳くらいの小太りの日本人男性だ。
社長にしては若いなというのが第一印象だった。
テーブルの上にはいくつもの寿司が並べられていて、味や見た目のチェックでもしていたのだろう。
マネージャーに紹介されたので、緊張しながら挨拶をする。
社長「新人の子?寿司食べていっていいよ。」
と声をかけてくれた。
少し雑談をした後に、社長が指を指しながら、
社長「これなんて名前かわかる?」
私「〇〇ですかね?」
社長「じゃこれは?」
私「・・・」
まずい、わからない・・・。
メニューの勉強はしていたが完璧ではなかった。
150種類ある寿司の名前を4日では覚えられなかった。
ここは日本ではなく外国、細かなことは気にしない国。
緊張と性格の暗さを隠すために明るくお茶目に答えようと思った。
私「あ、まだ覚えてないです。次回覚えて来ますっ!」
少し申し訳ない感じを出しながら、自分なりに明るく笑顔で答えた。
次の出勤日に職場へ到着するやいなや、マネージャーにクビ宣告された。
マネ「社長があなたのこと気に入らなかったのよ。」
私「え??なんでですか?」
マネ「寿司の名前がわからなかったでしょう?そしたら社長が『わからないならわからないなりの態度を示せ。すいませんでした、もっと勉強するようにしますとか言えないのか。』と言ってたの。私も『他の仕事は覚えて来ましたよ。最初だからしょうがないんじゃないですか?』と言ってみたけれど、『そう言う気持ちのやつに働いて欲しくない。』と言われてね。社長が決めたことは絶対なのよ。今日で仕事最終日ね。」
えーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!
それが理由でクビだなんて、めちゃくちゃ日本的!
個人的にはそんなに悪い態度取ったつもりはなかった。
失敗しても、明るい子を演じて周りの印象を悪くさせないようにしたかった。
楽観的に振舞って自分自身を落ち込ませないようにしたかった。
ポジティブに受け取って欲しかったのに・・・。
良かれと思って普段やらないことをして、裏目に出た。
でも普段は真面目に仕事をしていたし、そうゆう面を見ていない人が私の一度の失態(?)できっぱりクビを言い渡せるとは信じられなかった。
社長に直接弁解したかったが、普段は遠くの都市に住んでいるので次にこの店に来るのは何ヶ月も後だ。
誤解されたままどうしようもできない。
「なんで?なんで?なんでこうなった?」とぐるぐる考える。
もし社長が1ヶ月後に来てくれていたら・・・
もし私の仕事がない日に社長が来ていたら・・・
運がなかった。
気持ちが沈んだまま、最終日の仕事をこなした。
ずっと楽観的な考えや態度の明るい人を羨ましく思っていた。
多少の失敗もその明るさがカバーしてくれるし、人からも好かれると思っていた。
だが楽観的に考えニコニコ笑って許される人と、許されない人がいることを知る。
今でも楽観的に振る舞おうとすると、この苦い失敗体験を思い出してしまう。
その後、鬱状態になったのは言うまでもない。