オーストラリアを旅をしながら、居心地の良い都市を探していた。
2ヶ月ほど旅をしていたので資金も少なくなり、そろそろ身を落ち着かせて仕事をしたいと思った。
そしてある街でアルバイト先を探すためにインターネットで応募したり、履歴書を直接配って歩いた。
英語の上達の為に日本人が少ない飲食店を選んで応募したが、なかなかいい返事がもらえない。
仕方がないのでしばらくは日本人スタッフがたくさんいる寿司屋で働いて食いつなぎながら、引き続き日本人が少ない飲食店を探すことにした。
すると、すんなりと寿司屋での採用が決まった。
人手不足もあっただろうが、寿司屋も積極的に日本人を採用していたのだと思う。
だって日本人が働いているだけで本格的で伝統的な店という気がするから。
周りのスタッフを見渡すと、4分の3ほどは日本人であとはアジア系の人だった。
私の仕事はホールで接客することだ。
席の案内、注文とり、配膳、テーブルの片付けが主な仕事なのだが、まず一番最初に教えられたのは声出しであった。
店の端に立ち、マネージャーである日本人が言うことを大声で復唱する。
マネ「いらっしゃいませー!2名様、ご案内しまーす!」
こう言う雰囲気は苦手だな・・・なんか恥ずかしい・・・と思いながらも復唱する。
マネ「声が小さいから、もっと大きな声出して!これができないと採用にならないから。」
そう、厳密に言うと今の段階は研修期間であって、これに合格しないと本採用にはならないのだ。
こんな声出しで不採用になったら情けないな。
こういう大きな声を出してお客を接客するのは日本特有の文化だ。
海外ではないことなのだが、あえてこの接客をすることで外国人が喜んでくれると言う。
声出しは3日目になってようやく合格が出た。
席の案内、注文とり、配膳、テーブルの片付けを少しずつ覚えていく。
要領が良くない私は覚えることがたくさんあって混乱していた。
更に大変だったことは、150種類ある寿司メニューを全部覚えることだった。
サイドメニューも加えれば全200種類ほどになる。
日本では見られないユニークなメニューがたくさんあった。
アボカドや揚げ物を入った太巻きが多く、生の魚を使った寿司が少ないなど、日本人が思い描く寿司のイメージとはかけ離れたものが多かった。
だが、メニューの写真と実物の見た目が違っている寿司があったり、中身がほとんど同じ寿司もあったので見極めが難しかった。
マネージャーから怒られたくなかったし、お客に寿司について質問されてアタフタしなくなかったので、毎日帰宅してからメニューとにらめっこしていた。
少しでも早く寿司の名前を覚えたかった気持ちもあるが、それよりも名前を覚えられない不安の方が大きくて仕事後も落ち着いて休んではいられなかった。