オーストラリアでのカフェバイトの鬱ストーリーはまだ続く。
仕事にも慣れて来た頃、オーナーに呼び出された。
オーナー「結構仕事ができるようになったと思うけど、他の仕事もやって欲しいんだ。バリスタができるようになるとか、電話で注文が取れるようになるとか。そうでないと仕事を辞めてもらわないといけないよ。」
そんな仕事できないなどとは言えるわけがないので、とりあえず「わかりました。」と答えた。
バリスタになるというのは、業務用の大きなエスプレッソマシーンを使ってアメリカーノやラテなどのいくつもの種類のコーヒーを作らなければいけない。
さらに海外はトッピングなどの細かな注文をするのが普通なので、注文を受けるの作るのもややこしい。
客A「Mサイズのフラットホワイトでミルクは低脂肪乳でヘーゼルナッツシロップ少々、あとぬるめでお願い。熱いのが苦手なのよ。ここで頂くわ。」
(フラットホワイト=ラテより泡が薄くオーストラリア以外ではあまり見られない)
客B「Lサイズのカプチーノでミルクはアレルギーがあるからソイミルク、砂糖は2つ、熱めが好きだからエクストラホットで作ってね。あとココアはいらないから、上にふりかけないでね。テイクアウトで。」
さらに砂糖はお客が自由に入れられるように店内に置いてあるにも関わらず、コーヒーを作る際に砂糖を入れてくれと頼む人が結構いる。
「そこに砂糖があるので自分で好きに入れてください。」と言いたいところだが、お客の好みのものを作る為に融通を利かせてバリスタが砂糖を入れてあげなければいけない。
日本にはない注文の仕方なので、全然頭に入ってこない。
だがここで長年働くバリスタは一度聞いた注文は全部頭に入れていたいし、常連がいつも頼むメニューまでも覚えていた。
なので常連がお店に入って来るやいなや、彼らがいつも頼むコーヒーをすぐに作り始めて、お会計が終わると同時にコーヒーを提供するという早業もしていたのでかなり驚いた。
私はその手際の良い同僚バリスタの姿を見ているだけで、もう頭がいっぱいいっぱいだった。
コーヒーに関して知識はゼロだったし、今までエスプレッソマシーンに触れたこともない。
でもラテ作りには興味はあったのでミルクを泡だてたりなど練習をしたいとは思ったが、カフェはいつも忙しくて練習する時間がなかった。
そして何より嫌だったことは、電話に出ることだった。
以前コールセンターで私の失敗でもないのにお客さんに怒られて以来、苦手意識がついていた。
さらに対面で注文を取るならば、もしわからなくても同僚に聞くことができるからまだいいが、英語の聞き取りに自信がなかったし電話では誰も助けてはくれない。
カフェで電話が鳴るたびに電話を取らなきゃと思うのだがなかなかできず、いつも他の同僚が電話に出てくれるのを待っていた。
電話を取って、自分が動揺してパニックになるのは予想がついた。
そのあとに、失敗した自分を悔やんで鬱になることまでもイメージがついた。
オーナーにクビ予告されてから何もできない自分を責める。
「今日も電話に出ることができなかった。」、「今日もコーヒーを作る練習ができなかった。」と後悔の連続だった。
私には余裕が全く無かった。
今やっていること以上の仕事はできる気がしなかった。
いつクビを言い渡されるのかとヒヤヒヤして毎日落ち込んだ気分だった。
オーナーに面と向かってクビだと言われるのが怖くて、すぐに自分で働き先を探しだした。