オーストラリアのカフェでアルバイトをしたことがある。
オーストラリア人オーナーに、多国籍の同僚、そしてお客のほとんどがオーストラリア人。
小さな店だったが、絶えずお客が来る店だった。
私の仕事は、食事やドリンクの配膳、洗い物、料理の下準備だった。
5ヶ月間ほど働いていたのだが、いつものように鬱の波が来た。
まず最初の小さな波は、初日の仕事が終わった後に来る。
「こんな難しい仕事できない!覚えることがたくさんありすぎて頭がパンクしそうだ!しかもオーナーの言ってる英語がわからない・・・」
ここでやって行ける自信を無くし、すぐに心が折れてしまう。
1週間ほどは仕事がないときでも「どうしよう、どうしよう・・・」と落ち着かない。
しかしほんの少しだけポジティブに考えが浮かんできて、少しだけ救われる。
「まだ仕事を始めたばかりだからね。わからなくても仕方がない。」
働き出して2ヶ月ほどして、ある程度仕事内容も把握できた頃、大きな波がやって来た。
その日は、いつものように料理の下準備で野菜を切っていた。
野菜の在庫が少なくなるとホワイトボードに書かなければいけない。
オーナーがホワイトボードを見て、足りない食材を買い出しに行くという流れだった。
私は要領が悪いし、言われたこともすぐに忘れてしまいがちだ。
配膳やら洗い物やら別の仕事をしていたら、足りなくなりそうだった赤カブをホワイトボードに書き忘れてしまった。
それに気がついたのは仕事後に帰宅した時だった。
「あ!やばい、書き忘れた!明日でも大丈夫かな?どうしよう、オーナーに怒られるかもしれない・・・」
血の気が引く。
「まだ始めたばかりだからね。そういう時もある、仕方ない。」
とは自分には言い聞かせられなかった。
オーナーは決して怒りっぽい人ではなかったのに、彼の怒っている顔が何度も浮かぶ。
ぐるぐると悪いことばかりが頭を巡り、そのミスのこと以外は考えられなくなった。
すぐにオーナーにメールすることもできたが、書き忘れたことを怒られたくないし、嫌な顔もされたくない。
このままでは落ち着かないし眠ることもできないと思い、なんと自分でスーパーに行って赤カブを買うことにした。
すると他の野菜ももしかしたら足りなかったかもしれないと心配になってきて、結局3種類くらいの野菜を少量づつ買った。
次の日にカフェに行くとこっそりと野菜を保管してある部屋に行って、自分で買ってきた野菜を棚に置いた。
誰も気づくことはなく、ホッとした。
今であれば、そこまでする必要はなかったと思うが・・・
このように私は極端に人に怒られることを怖がった。
相手に不快な思いをさせたくなかったし、自分が怒られて人前で泣くのも嫌だった。
人間誰でも失敗はあるし、怒られてしまうこともある。
でも私の心の奥底に「怒られることをしてはいけない。」、「いい子でいないといけない。」という子供の頃からの心理がずっと残っているから、どうしても怒られることを避けたいのだ。