なんとかラテアートでハート型が作れるようになった頃、オーナーに遅番の仕事を頼まれた。
遅番は13時から閉店の19までの勤務で、1人で接客、掃除、レジ締めの作業をしなければいけない。
嫌だったが、断れなかった。
経験のない私は雇ってもらっているだけでありがたいと思わないといけないと思っていたので、新人の私がシフトに文句をつけられるわけがない。
最初の1日だけ他のスタッフがエスプレッソマシーンの掃除の仕方、レジの締め方、店の鍵の掛け方を教えてくれたが、1日で全て覚えれるわけがなかった。
次の週、私1人きりの遅番勤務が始まったが、もちろん問題だらけだった。
まず綺麗な艶のあるミルクフォームができず、キメの粗いものを作ってしまい、満足にカプチーノを作れなかった。
作り直すこともできたが、次のお客が待っていると時間をかけるわけにはいかない。
誰にも助けを求めることができないし、オーダーをストップすることもできないし、見た目が悪くても仕事をこなすしかなかった。
夕方6時頃になると閉店準備を始める。
ショーケースに入れてあったクッキーをタッパに詰め込み、ホットサンド用の鉄板を掃除し、ドリップコーヒーの入った大きなポットを洗う。
一番厄介なのはエスプレッソマシーンの掃除だ。
メモを取ってはいたが、掃除の仕方が合っているか心配になり、疑問が次々と湧いてくる。
同僚に助けを求めて電話をするが出てくれない。
数百万もする高価なものなので壊すわけにはいかないので、ハラハラしながらわかる範囲で掃除をした。
最後にレジの締め作業をするが、今までの飲食店のアルバイトでもこの作業をしたことがなかったのでかなり手間取る。
結局初日は予定していた時間よりも30分も遅れて仕事を終えた。
もちろん次の日に、「仕事時間がオーバーしても、その分の給与を払える余裕はない。」とオーナーに注意された。
「遅番は早番と比べてお客が少なく、忙しくはないので慣れれば楽だよ。」と同僚は言った。
だが私はもう1人で仕事をしたくなかった。
仕事の間中、不安でいっぱいだった。
仕事の間中、お客なんて誰も来なければいい、テイクアウトの注文なんて入らなければいいと思った。
誰にも助けを求められず、責任が多いと辛くなる。
その後、何回やっても遅番の苦痛は変わることがなかった。