数年前から、いつかバリスタの仕事をしてみたいと思っていた。
コーヒーの味には疎いが、飲むのは好きだったし、ラテアートをしてみたかった。
オーストラリアのカフェでは、興味はあったのだが、忙しくてラテ作りを学ぶチャンスがなかった。
ここではお客が少ない時間に、コーヒーマシーンを使っていろんなコーヒー作りを練習をする時間があった。
まずはコーヒーマシーンの使い方から学ぶ。
横幅約1m、抽出口が3つ、ミルクスリームが2つ、購入金額が数百万もする機械だ。
高価な機械なので、丁寧に扱わないといけない。
豆を挽き、それをぎゅっと型に押し込んで、機械にセットして、エスプレッソを抽出する。
抽出時間は確か28秒前後で、毎日バリスタが味を見て決めるので、毎日時間が変わる。
コーヒー味音痴の私には、手間がかかる作業だと思った。
そこまではすぐにできるが、ラテやカプチーノを作るのが大変だ。
まずミルクを泡立てるのが難しい。
細いノズルのスチーマーをミルクが入ったジャグ(ミルクを入れるステンレスのカップ)の中に差し込み、高熱の蒸気を出して泡立てるのだが、シューっという蒸気が出る音が大きくてビビってしまう。
きめが細かくて艶のある泡を作るにはかなりの練習が必要だ。
どうしても泡が荒くて見た目も悪いし、すぐに泡が消えてしまう。
かといって泡立てに時間をかけると、ミルクが熱くなりすぎて味が落ちるらしい。
ミルクが人肌に温まったら、それをカップに入ったエスプレッソに注ぐ。
よく写真で見るようなリーフの形をした模様を作るのは難しい。
リーフより簡単なハート形さえも作れない。
何度も何度も練習しても上手くならないので、自分の能力の無さにがっかりする。
同僚は何年もバリスタ経験がありコーヒー知識も豊富だし、素早く驚くほど綺麗なラテアートを作る。
どうしても自分のラテアートを比べてしまい、自身がさらになくなる。
こんなものをお客に出せないし、出したくないと思った。