2ヶ月ほどたち、少しずつ仕事に慣れてきた。
日本とは違う接客システムだし、相変わらず電話は苦手だったが、カナダの地元レストランで働いていることと、同僚やお客が国際色豊かだったことにはとても満足していた。
私の仕事のある日のルーティーンはこうだった。
08:00 起床・朝食
08:30 家を出る
09:00 勤務開始・トイレなどの掃除
09:30 食器を磨く・ナイフとフォークをナプキンに包む
10:00 お客を席に案内する・食器を下げる
16:00 勤務終了
16:30 帰宅・シャワーを浴びる
17:00 夕食
普通の勤務に見えるが、後になって考えると酷いものだった。
9時から16時まで7時間勤務をしていたのだが、昼食の時間がなかったのだ。
そして短な休憩も一切なかった。
確か、ウエイターやシェフなど8時間勤務以上になるとまかないがもらえるのだが、私のポジションの場合はもらえない。
社員割引で3割引ほどで料理が食べられるらしいが、このレストランは観光地にあり、基本的に料理の値段が高かったので、割引になるといっても食べたいとは思わなかった。
ちなみに、オーストラリアやドイツのレストランで働いた時も1日の勤務時間は6時間ほどだったが、どこも無料でまかないを食べることができた。
ちょっとこのレストランの労働環境が変だなと思った頃、ウエイター(兼マネージャー)と話す機会があった。
彼は20代後半のイギリス人で、背が高く、ハンサムで優しい人だった。
私「ウエイターの人はまかないがあっていいな。私たち(受付係)だって7時間も働いているのだから、まかないを食べたいよ。しかも休憩なく働けなんて無理だよ。」
彼はただ私の愚痴を静かに聞いてくれた。
しばらくしたある日、受付係の同僚と話していた。
同僚「ねえ、知ってる?マネージャーってオーナーの前妻の息子なんだって!全然似てないよね(笑)。」
私は一瞬混乱した。
オーナーは40才くらいのイタリア人女性と、60才くらいの中東系男性のカップルだ。
私「え、だってオーナーはあったことあるけど、中東系だったよね?でもマネージャーはイギリス出身でしょ?」
同僚「オーナーの前妻がイギリス人だったから、マネージャーはイギリスで育ったんだって。」
・・・
こないだマネージャーに散々レストランの文句を言ってしまったのだが、なんと彼はオーナーの実の息子だったのだ。
従業員はワーキングホリデーの人や学生が多かったので、彼もてっきりその1人かと思っていた。
血の気が引いた気がした。
こんな恥ずかしい思いをしたことがなかった。
『マネージャーは私の愚痴を黙って怒りもせずに聞いてくれて、本当に心の広い人だった。』
と思うべきか、
『いや、顔には出さなかったが、心の中では私にむかついていたかもしれない。』
と思うべきか・・・。
なんだかオーナーの顔がちらついて、その後気軽にマネージャーには話せなくなってしまった。