さらに彼は童顔な見た目とは裏腹にとても怒りっぽかった。
最初は私たちが新人だから、失敗をすることが多くて怒らせてしまったのかと思っていたのだが、いつになっても怒られ続けた。
しばらくして、彼は大したことではないことに対しても怒っていることがわかった。
すぐ表情に出るし、感情を大きく表し、常に怒るのが彼のベースの性格ようにさえ思えた。
毎日開店前に高さ3メートルほどある大きなガラス張りの窓を掃除しているのだが、たまに拭き残しが見つかると、その度にすごく嫌な顔をしながら怒られた。
私たちは決してサボっていたわけでもなく、ちょっとした見落としだったのだが、それを大きなミスをしたかのように怒った。
またある日は開店準備のため、ウエイトレスである私たちはテラス席の掃除とセッティングをしていた。
いつもやっている準備なので時間もかからずスムーズにできた。
開店間際になってマネージャーが出勤すると、私たちを見るなりすぐに怒り出す。
マネ「なんで外の椅子が汚いんだ!早く掃除して!」
「テラス席のテーブルや椅子はちゃんと掃除したのに。」と思ったが彼のいう椅子とは、入店できずに待っている人が座る、外に置いてあるベンチ椅子のことだった。
今まで一度もその椅子を掃除してと指示はなかったが、しっかりと怒られる。
「あの椅子が汚いから、掃除しておいてねー。」くらいの口調で言えば嫌な感じはしないのだが、彼にはそんな言い方はできない。
私たちは何も言い返しもせずに、すぐさま椅子の掃除に取り掛かった。
また別の日は、私がオーダーを取る際にお客に日本について聞かれたので少し長めに話していると、その場を離れた後に彼に怒られる。
マネ「なんでそんなに長く話してるんだ!そんなに話さなくていいんだよ。早く仕事に戻って!」
日本では店員とお客は最低限の話しかしないのが普通であるが、欧米ではお客とフレンドリーにちょっとした世間話をするのがサービスの一部であり、それが普通である。
その時店が混んでいるわけでもなかったし、5分ほどしか話していなかった。
良かれと思って、仕事に支障が出ない程度にフレンドリーに接客をしたつもりだったのだが、裏目に出てしまった。
海外で多国籍の同僚と働いているのに、なんだか日本にいるような堅苦しさを感じた。
そして、だんだん怒られることに耐えきれなくなっていく。