やがてプレオープン期間が終わり、正式にレストランは営業を開始した。
私の働いていた日本食レストランは海外にいくつもの店舗も持つチェーン店だった。
店の売りは、低価格で種類豊富な日本食が食べられるということ。
お客側としては嬉しいことなのだが、働く側としては種類が豊富すぎることは負担だ。
日本人の私でも見たことないし、中身もよくわからない海外風の太巻きがたくさんあった。
全部のメニュー名を覚えるのは大変だし、使っている素材がそれほど変わらないような料理もあってややこしい。
基本的に日本人ではない人が来店するので、この料理は何が入っているかと聞かれることが多々ある。
私は日本で、餃子に何が入っているか店員に聞いたことがない。
豚肉か合挽き肉か、白菜かキャベツかなんて気にならないし、美味しかったらそれでいい。
しかし彼らにとっては異国の料理で、何が入っているか見当がつかない。
宗教的な理由で豚多肉を避けている人もいる。
曖昧な答えを言ってはいけないので、その度に私はシェフに確認しに行き、お客に説明した。
さらに海外はアレルギーを持っている人も多く、どんな材料を使っているかと時々聞かれる。
甲殻類アレルギー、卵アレルギー、ナッツアレルギー、ごまアレルギー・・・
このような質問を受けるときは緊張する。
お客に万が一のことが起こってはいけないので、材料が分かっていたとしても必ずシェフやマネージャーに確認を取った。
一度団体客の中に海鮮アレルギーの人がいて、魚介類を使っていない料理はないかと聞かれてことがある。
ラーメンや肉料理もあったがキッチンは1つしかないし、まな板や包丁は洗ってはいるが本当に敏感な人だとそれでもアレルギーを起こすことがある。
「そういう人が、寿司をメインに扱う日本食レストランに来てはいけないよ。」と思ったが、そんなことはもちろん言えるわけがなく、必死で彼用のメニューを探し、シェフも最新の注意を払って料理を提供してくれた。
そして海外でのオーダーは日本よりも柔軟というのも大変だった。
アレルギーではなくても、材料の変更や指定した材料抜きで料理してくれと頼む人が結構多い。
客「ラーメンのチャーシューは抜いてね。」
客「カリフォルニアロールにマヨネーズ入ってる?マヨネーズ抜きで作って欲しい。」
客「この太巻きにマグロが使われてる?もし入っているならサーモンに変えて欲しい。」
注文がシンプルではなくなるので、このようなオーダーはミスをすることが少なくはなかった。
メニューを覚えるだけで精一杯なのに、こまかな材料までなかなか覚えられない。
アレンジのある注文だと何度も確認することが必要だし、失敗が怖い。
仕事を始めたばかりでいろんなことがうまくこなせず、不安を感じてしばらく軽いうつ状態だった。