オーストラリアで農業の仕事をするため、車が必要だった。
山の中に住んでいたので交通手段は1日1本のバスだけだったし、大きな通りしか通らない。
これでは農業の仕事探しもできないし、仕事をもらったとしても通勤ができない。
そうとは言っても新車なんて買えないし、長く車に乗ったとしても2年間だけ。
と言うことでネットで中古車を探し、23年落ちの日本車を$700ドル(≒6万円)、手続きを諸々合わせて$900(≒7万5千円)で購入した。
日本でこんなに古い車は見たことがなかったし、車体価格も安くて驚いた。
オンボロ車に多少不安はあったが、日本のメーカーということで品質の良さを信じることにした。
以外にもオーストラリアでの運転はそれほど難しくなかった。
日本と同じで右ハンドルで左側走行だし、田舎に住んでいたので信号や交通渋滞もなかった。
ただひとつ問題であったことは、私に車の知識がなかったことだ。
日本では2年に1度の車検制度で専門家に見てもらえるが、オーストラリアはその制度がなく、基本的に自分で車のメンテナンスをするらしい。
日本にいた時は家族に車のことを任せっきりだったので、私はボンネットの開け方も知らなかった。
車を購入してから生活が少し楽しくなった。
仕事に行きやすいのはもちろん、いつでも買い物に行けるし、近場の観光ができた。
そして購入から2ヶ月ほどしたある週末、友人とビーチへ遊びに出かけた。
オーストラリアのビーチは日本のビーチと比べ物にならないほど綺麗だった。
砂は白く、水は青いグラデーションになっている。
水の透明度が高く、まるで水族館の水槽ように泳いでる魚がよく見える。
友人と楽しい時間を過ごして、とてもいい気分で家に帰ろうと車に乗り込んだ。
しばらく運転していると、アクセルがあまり効かなくなった。
スピードが出ない。
おかしいと思って路肩に車を寄せる。
よく見るとシフトレバーがDではなく2に入っていたのだ。
日本で乗っていた車はハンドル近くのパネルにどのシフトが入っているかデジタルでパッと見てかわかるようになっていたのだが、この23年落ちの車にそんな表示はされずはずもなく、ブレーキレバー横にあるシフトレバーを直接見るしかなかった。
2を使ったことはなかったし、いつ使用するのかもわからなかったが、なんだかヤバい予感はした。
気付いた頃には時は既に遅し。
エンジンもかからなくなってしまった。
完全にパニックで、どうすればいいか頭が回らなかった。
結局、シェアハウスのオーストラリア人に片道1時間かけて迎えに来てもらった。
助けてくれたオーストラリア人と一緒にいた友人に迷惑をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
後日、車はオーバーヒートで修理できないこともないが、購入価格よりも高くなると言われたので廃車にした。
その後いろんな人に、
「$700で買った車が2ヶ月ももったなら安いもんじゃない!」
と励まされたが、私にとってはかなりショックだった。
それからしばらく鬱が続いたのは言うまでもない。