イアフォンやサングラスをして外からの影響を最小限に減らし、なんとか大学へ通っていた。
しかし、普通に授業に出席するだけでは卒業はできない。そう、卒業必須科目である卒業研究をしないといけない。
私は卒業研究を仕上げる自信が全くなかった。興味もわかないし気力もない。
他の授業に定期的に出席するだけで精一杯だった。
でも、それをしないと大学を卒業する目標が達成できない。
そこへ以前から授業を受けていた教授が手を差し伸べてくれた。
教授「卒業研究どうするの?私のところへいらっしゃい。あなたならできるわよ。」
教授は私が長らく休学していたことを知っていたが、私の病気や症状などは知らなかったと思う。
その教授の卒業研究をとるなんて考えたこともなかった。正直に言って、興味がなかった。でも、今の私の状況で他の教授について卒業研究をするエネルギーはなかった。
私はその教授の優しさに甘えることにした。
教授「好きな題材を選べばいいのよ。論文を書く事は難しくはないわ。少しずつやればいいの。」
そうは言っても、私にはとてつもなく大変な事だ。
躁鬱病になってから、集中力や語彙力がなくなったと感じる。そして疲れやすい。授業を受けるだけならまだいいが、自発的に考え何かに取り組む事は難しい事だった。
レポート1枚の課題ならなんとかなるのだが、論文は何十枚と書かなければいけない。文章の構成、内容、繋がりを考えながら書くなんて、その時の私の脳みそでは不可能に近かった。
でも卒業がかかっているのでどうなるかわからないが、とりあえず卒業研究を始めてみる。
しぶしぶ始めた卒業研究の題材に選んだものは教授の専門分野ではなかったが、温かく見守り優しく助言してくれた。
研究室には12名くらいの生徒が所属していたが、みんな私よりも若く、もちろん顔も名前も知らなかった。
その中で私は無愛想な留年生で浮いた存在だったが、大きな鬱の波が来ることもなく、なんとか研究を進められた。
悪戦苦闘しながらも大学8年生の冬、奇跡的に卒業研究を仕上げる事ができた。
研究内容と論文の出来はいいものではなかったと思うが。
しかし論文を書いて卒業研究を完成させるなんて、1年前には夢のまた夢であって、思ってもみない事だった。
私、やれば出来るじゃないか!
今思い返せば、その教授のおかげで大学を卒業できたと言っても過言ではない。
私の状況を理解してくれて、なんとか卒業させようと指導してくれたおけげだ。
8年かかって、やっと大学生活の終わりが見えてきた。